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短歌のリズムで

言の葉が群れをなすかな鰯雲 暮れゆく空で歌になるらむ

「長押し」という自分勝手

高齢の母親に今更ながら非接触の体温計を使えばいいと持って行った矢先に、電源が入らずに全然使えない、使い方がわからないと文句を言われました。私や他の人が操作すると簡単に使えるにも関わらず、母親が使う時だけどうにもこうにも、上手く動いてくれません。しばらく試行錯誤していると、あることに気が付きました。

体温計は電源ボタンも、計るボタンも同じ一つのボタンしかありません。
人間は何故かしらボタンの反応が悪いとき、長く押し続けてしまう癖のようなものがあります。昭和の時代から生きている人にとっては、当たり前とも言えることかもしれません。

タブレットやスマートフォンなど、タッチパネルがあらゆる所で普及している現在においては、「ボタンを押す」ということに新たな意味が付け加えられました。物理ボタンの数や、果ては最新型のスマートフォンのように物理ボタンそのものを無くしてしまうために、
「短くタッチする」と「長押しする」という別々の機能が割り当てられてしまいました。
その結果、母親のような無限ループに陥る使用者が現れることになります。

短くタッチする(押す)ことで電源が入り、再度短くタッチ(押す)することで計測を行うという機能の割り当てが、

A・長押しする(電源が入る、切れるを繰り返す)
B・電源が入った場合→短くタッチすれば計測できるが長押しするため電源が切れる
C・電源が切れた場合→Aを繰り返す

という、どのようにしても計測できない無限ループをもたらしてしまいます。
単純に押し方の問題だろうと言われる方もいらっしゃるかもしれませんが、キーボードやマウスを使ったことがない方に「ボタン(キー)を押して下さい」とお願いすると、ほぼ全員が数秒間は同じキーを押したままにするものです。
※昔ワープロ教室の講師をした経験がありますが、初心者はまず長押しからスタートします。私は「短く押す」という時間をわかりやすく伝えるため当時は、「ピアノを弾くように押して下さい」と表現していました。

このことは以前にも話題にしたコンビニのプラスチック製のスプーンとフォークに異なる印がついている話(素敵なくぼみ)とは正反対の、まるで出来ていないユニバーサルデザインの例だと思います。

自分の「押す」が世界の「押す」とか世間一般の「押す」だと思い込んでいることこそ、
多くのエセ歌人が陥っている「私劇場」や「私賛歌」、「私なりの表現」の行き過ぎた悪癖であることに気付けないからなのです。

同様に「長押し」の機能が物理ボタンを減らすことで生じるコストダウンや、デザインに大きく貢献しているなどと思っている人は、時間を無駄に消費することを何とも思っていない愚かで可哀想な考えの持ち主だということもわかります。
何故物理ボタンやキーボードが減らないのか。それは「緊急用件」に対応できないからです。
長押ししなければ電源が入らない、長押ししなければ電源が切れない、これでもう1回あたり2秒以上はロスしているのです。わずか2秒、と思われるかもしれませんが、それを使用する回数や人数を鑑みれば、膨大な時間が無駄に消費されていることがわかります。

馬鹿な設計者の「押す」という感覚のせいで、振り回されてしまう使用者もいることを理解するべきだと思います。もしもこのようなことをエレベータのボタンで行えば相当な混乱が起きてしまいかねないでしょう。

短歌は特にその比喩において自分だけの感覚が全面に出てしまうことが多々見られます。
若い歌人は言うまでも無く、50代前後の中堅やベテランにもとても多く見られます。
それは決してその人特有の創造性などではないと思います。
単に自分勝手な「押す」という時間感覚を押しつけているに過ぎません。

何らかの感覚で自分の位置や方向や置かれた状況などという情報を持ち得なければ、空のある方向は指させません。そのような情報を全く与えずに、ただただ頭の中の「私劇場」
という妄想の中の空を描こうとする作歌では、読者が置いてけぼりになるのも無理はありません。

言葉と感覚は常に慎重に選ばれなければなりません。
伝わる、伝わらないという以前に、人間が感じた「質量感覚」のようなものがそこに宿っているのかを吟味しながら、作歌しなければならないということのなのでしょう。

・ 海ならばどちらが空かわかるだろう 妄想の中の空は指せるか

妄想の中ならばいつも極彩色だろう。地に足がつかないのも無理はないが、感覚や感情に「質量」が無いからこそ、それを補完する情報が必要だと思う。歌人はそこを試されているのだろう。

2022年2月17日
短歌 ミルク
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プロフィール

HN:
ミルク
性別:
非公開
趣味:
頭の体操
自己紹介:
気づく人だけが手に入れられる
輝きを求めて、日々の宝探しを
楽しむように短歌のリズムで進む
足あとのようなものです。

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