その土地で育まれた食物にはその土地の風味が含まれているように、それぞれの家庭にもそれぞれの味と風味がこびりついています。離れてしまった故郷を再び訪れた時、自らが異物になってしまったように感じる風と、その風こそが懐かしい風だと感じる自分が存在しています。匂いは少し曖昧だけれど、水一杯でもはっきりと解る味覚は、なにより正確に記録されていて、疑いようのない故郷のものです。明日のこと、明後日のことと、頭でっかちになってばかりの現代人が忘れてしまいつつある大切な記憶のありかは、スマホやデジカメの中ではなくて、素朴な日常の中に普通にあったものなのですね。一度もSAVEをした覚えなどなかったのに。
故郷に帰ればただの素麺も麦茶もしおりの夏物語
もしかすると此の世で最も確かな記録は、味なのかもしれない。
2019年8月12日
短歌 ミルク