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短歌のリズムで

言の葉が群れをなすかな鰯雲 暮れゆく空で歌になるらむ

作歌ドリル 5 (普通)

今年もいよいよ終わりに近づいてきました。今までの人生ではアル中親父がいるせいで、盆暮れなど、季節の節目をしみじみと感じることなど殆どありませんでした。ろくでもない事で行事が台無しになることがなくなって、慌ただしさも含めて落ち着いて受け止めることができています。これが(普通)なのかどうかは解りませんが、うたよみんの現在の歌題でもある(普通)を考えたいと思います。

私がまず思いつくのは、電車などでの普通列車という呼び方についてです。とかく平均的に中ぐらいとか、当たり障りがないとか、無味無臭とかそんな例えで示されることが多い(普通)が、普通列車に関しては(鈍行)というどちらかと言えば劣っているという表現で表されていることは不思議なことです。まさか特急や急行、快速が優れていて、普通列車は劣っているなんて馬鹿なことではないと思いますが、この事は頭の隅で引っかかっていて何とか歌にしてみたいと思っていました。

批判することは一旦横に置いて、言葉通りに(普通)=(鈍行)という事が一体何を指しているのでしょうか。単に移動速度が他の列車よりも遅いから鈍いという字があてられたのでしょうか。他の列車が速いからといって料金が同じ訳でもなくて、高いから速い、安いから遅いのであれば至極あたりまえな話です。でも、鈍行という言葉にはある意味悪意とも取れる意図すら感じてしまいます。(普通)は本当に劣っているのでしょうか。

少し頭を軟らかくする意味でも瞬発的に詠んでみましょう。

A・仲良しの指標はいつも曖昧で僕は「ふつう」と呼ばれる一人
B・普通という言葉に罪はないけれど避妊具だけが最適解だ
C・ゆっくりと進めばそれは鈍いのか普通列車は鈍行列車

いつも一発目が冴えているのか、今回もAはいい切れ味です。友達との仲の良さを表す(普通)に対する皮肉を詠ったものですが、このままキープです。
Bは少しナイーブでセンシティブな題材ですが、男性諸氏には理解されるものの女性の理解が得られるのかどうかは謎です。しかしパッケージに書かれた(普通)がこれほどしっくりきて嫌みがないものはなかなか他にないような気もします。最適解も惹かれる言葉ですから、どこかにぶつけてみたい歌という感じです。
Cはあまり深く考えずに直球で詠んだものです。疑問をそのままぶつける方法は疑問や問いかけは伝わり易いのですが、作歌している自分との関係性が描かれにくいので、漠然と感じていることなのか、切迫して考えざるを得ないことなのか、そのあたりが曖昧になってしまっています。
自分としてはやはりC案をベースに考えてみたいので、もう少し掘り下げてみたいと思います。

速さが優劣を決める基準になるということなら、新幹線が最も上で普通は最も下ということになりますが、実際の言葉の解釈はどうなのでしょうか。
新幹線>特急>快速>急行>準急>普通という順列を解説する文章の中には、上位に劣るという表現を見ることができますから、残念ながらやはり優劣を決めることが元で使われたのは間違いなさそうです。
ここで位を争うこの図式はとても既視感にあふれるものであると気付きます。

社長>社員(平社員)宰相>平民先進国>途上国など、なぜかどれも位が低い方があたかも劣っていると言わんばかりの表現です。つまりこの場合の(普通)は列車と同じ感覚で呼び方が決められたのでしょう。優劣というとても偏った切り口です。

同じ乗り物では、船などもやはり優劣を意識して呼び方が決められていて、特等、一等、二等という船室や客室の呼び方をしていますが、自動車や二輪車は全く別の排気量や全長などで区別されています。四輪、二輪共に(普通)を詠うカテゴリーがあり、軽い物は軽自動車大きい物は大型自動車というように、そのものの優劣では区分されていません。
普通の使い方としては受け入れやすい名付けの方法だと思います。

どうやら平均や中流、中ほどといったように中央を示す言葉との勘違いも多数見受けられることから、(真ん中ではない)ということが言えそうです。
これはC案にあった(普通列車は鈍行列車)が端的で解りやすいと思いますので、列車を省いて使っても大丈夫なようです。
(真ん中ではない)(普通は鈍行)の位置ですが、字余りなので体言止めになっても最後くらいしか使えないと思います。
(真ん中ではない)ということを真ん中だと間違って捉えられていることを伝えなければなりませんが、真ん中だけでは弱く、自分としては(平社員)とか(平民)(平)という字を取り入れたいという気持ちが強いので、平がらみで探して(平衡)を使いたいと思います。
(平衡)(真ん中ではない)(普通は鈍行)ときて、平衡は肯定、真ん中ではないは否定となり、なかなか続けることは難しいと思います。結句を除いて4句までで思い違いをしていることを詠わねばなりません。もう少し頭をひねりましょう。

A・平衡と思った場所は真ん中と言えない場所だ 普通は鈍行
B・思い込む平衡の場所真ん中は大いにズレて 普通は鈍行
C・平衡だ真ん中だとの認識は思い過ごしだ 普通は鈍行

A案は簡単な言葉でスッキリしているものの場所だと言い切ってしまっていることが少し引っかかります。B案は上句で切れてしまって平衡と真ん中の関係性が薄くなってしまってもったいないです。C案のように一旦(心がそう想った)というワンクッションを置いて語る方がいいような気がします。

歌題一つを掘り下げることでとても多くの学びや気づきがあり、とても充実した考察となりました。これには丸一日を要しました。

平衡だ真ん中だとの認識は思い過ごしだ 普通は鈍行

思い込み慣れ親しんだ言葉ほど気づけない、シーソーの支点が移動していることを。

2019年12月30日
短歌 ミルク
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非公開
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頭の体操
自己紹介:
気づく人だけが手に入れられる
輝きを求めて、日々の宝探しを
楽しむように短歌のリズムで進む
足あとのようなものです。

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