忍者ブログ

短歌のリズムで

言の葉が群れをなすかな鰯雲 暮れゆく空で歌になるらむ

ありがちなこと、ありがちな歌

十代が短歌の簡単さに触れてしまうと、まるで攻略法の解ったゲームのように次々と駄作を量産してゆきます。本来は他の年代が逆さまになっても思いつかない魔法のような感性を持ち合わせているのに、自己顕示欲や承認欲求がことごとく純粋な想いを踏みにじります。今そこにしかない瑞々しさや、未完成であるが故の儚さを指して若者の魅力と感じるのであって、日記や呟き、日常の出来事を普通に綴っただけでは、短歌にすら届かないことに打ちのめされるだけでしょう。記憶というものは限られていて、輝きを放たないものを覚えておいてくれるほど親切ではありません。

十代は特に他のことでは心が動かないらしく、短歌をみても好きだ嫌いだという男女間のことを詠ったものが殆どです。それはそれで経験や読んだ本の数や、人とのふれあいの数の絶対数が少ないのですから、ある程度は仕方ないのかもしれません。
しかし最近は二十代、三十代、時には四十代でもまるで十代が詠むような稚拙な短歌を詠む人が増えていると感じます。これは完全にネットと匿名性が生んだ、使い捨てティッシュペーパー文化の一つだと思っています。

せっかく作るのだから、素直に伝わる以上に歌の世界を拡げて、もっともっと短歌を詠もうと感じたことのきっかけに没入して欲しいのですが、表面上の出来事や感想に終始してしまって終わりという歌の多さにガッカリしています。

私のステレオタイプな見方かもしれませんが、ありがちな十代男子と十代女子の短歌を例としてどのような方向へ変えてゆくべきかを考えたいと思います。

◇十代男子(ありがち作例)
最高なシュートだったと言われたよ君に褒められ天まで昇る

運動部での活躍などを褒められて嬉しかったという短歌です。素直な気持ちが綴られているのはよいのですが、これではたぶん一年後に自分自身が読んでも「気持ち悪い」かもしれません。第三者なら尚更です。勝手に言う分には結構ですがこれは日記に書く内容で、短歌にする内容ではありません。ただ事実を述べているだけの歌に魅力などありません。
何かを歌にする際に、本人や詠われる対象が特別なものである必要はありません。学校一の美男美女やプロ並みのスポーツ選手ではなくても、僕と君だけの間で輝くものがあれば、それは十分歌になるものだと思います。僕と君だけのと言うと、すぐにパピコとか肉まんとかを歌にする輩がいますが、そんなものが輝くものであるはずがありません。論外です。

男性に限ったことではないのですが、男性はロマンチストなので事実よりも願望を詠った方がより世界の広がりを感じることができます。そしてそれは控えめであればあるほど心を動かしてくれるものです。歌の世界の中で素敵なカップルでいるためにはどうするべきか、そんな思考を巡らせた方が答えに近づけるのかもしれません。

◆十代男子(改作例)
シュートする僕の姿が今日だけの君の記憶にならないかなと


◇十代女子(ありがち作例)
「君以外似合わないよねそのピアス」 ドキドキ伝わる心臓の音

全ての女性は年齢に関係なく、自分や自分の周りの環境が中心であることを望み、その立場から物事を観察したり表現したりすることが得意だと思います。共感テレパシーを発し、同じような経験や映像に特別の親しみを覚えるのも、女性ならではの特徴だと思います。
「自分が特別」「自分だけに言われた」「自分だけのファッション」「自分だけのドキドキ」という自分に纏わり付いた事象をあからさまにそのまま歌にしてしまうと、素直さを通り越して不粋になってしまいます。女性は男性と違ってリアリストですから、願望よりも現実の風景の描写の方が刺さります。そしてそれは物の状態ではなく、人の表情や行動といった、見たり触れたり感じたりできることの方が、歌の中の情景にぐっと近くなります。
視線や肌の色、濡れていたとか、冷たかったとか、ゴツゴツしていたとか、そのようなことです。こちらも、歌の中の彼と彼女がとても素敵に見えるように心がけて詠えば、きっと後になって振り返ってみても新鮮で臨場感のある思い出になるのではないかと思います。また、女性目線で作る際に限っては、できるだけ「彼」とか「君」とかを用いないのも一つの方法だと思います。香水のようにその存在を匂わせることができれば、歌の世界は大きく広がりを見せると思います。

◆十代女子(改作例)
見ていないふりで見ているミラー越しピアスの色じゃなくてお互い

ほんの少し時間を費やせば歌はとても広い可能性を示してくれます。
たくさん作ってもよいのですが、それ以上に作った歌と向き合う時間を大切にして欲しいと思います。


2020年6月15日
短歌 ミルク
PR

コメント

プロフィール

HN:
ミルク
性別:
非公開
趣味:
頭の体操
自己紹介:
気づく人だけが手に入れられる
輝きを求めて、日々の宝探しを
楽しむように短歌のリズムで進む
足あとのようなものです。

カレンダー

03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30

リンク

にほんブログ村 ポエムブログ 短歌へ
にほんブログ村

当サイト内のすべての絵と文、短歌の転載はご遠慮ください。
無許可の転載、複製、転用等は法律により罰せられます。
All rights reserved.Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
本站內所有图文请勿转载.
未经许可不得转载使用,违者必究.
にほんブログ村 ポエムブログ 短歌へ