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短歌のリズムで

言の葉が群れをなすかな鰯雲 暮れゆく空で歌になるらむ

009 記憶のかけら

 綻びてゆく物に触れたとき、時間という辛辣な力を思い知ります。様々な感情や情景や時代の風が過ぎていく中で、静かに刻まれた記憶の破片を拾い集めては、また引き出しに仕舞い込んでを繰り返すばかり。それはあまりに断片的で、とても大きなジグソーの作品にはならないけれど、私と昔の私をつなぐ些細な手がかりになっているのです。


1・思い出はいびつな方が刻まれて片減りばかりの運動靴も

2・母と子の途切れた記憶デイケアでシガーフライの味がつなぐ日

3・いつだってまだらに解凍されてゆく解かれることを嫌う思い出

4・記念日に母は大きなしゃもじ振る程よく欠けて酢飯梳きたり

5・手の先が誰でも母の温もりがそこにあるのか眠る子猫よ

6・幼子は暦のマスを埋めてゆく指折り紡ぐ花を見た歌

7・願わくば飛び出す絵本に隠れてさずっと待ちたい閉じ仕舞われて

8・ハチミツの壺抱くクマを抱き眠る子を抱き我は平穏を抱く

9・退院で角の取れたる悪友と話題ひとしく過去形となり

10・ふるさとへ帰れば息も普段着になりて纏わりゆっくり話す

11・故郷に帰れる理由鮭になり匂いだと知るバスを降りたら

12・年々と痕はなだらか右下がり暦の位置は母に近づく

13・でこぼこの担ぎ手なれど嬉しげに神輿は跳ねて賑わいの里

14・凍ゆ日に育てた冬の優しさか蓮華の蜜をそっと含めば

15・3本の列車と風を見過ごして少女はページをまだめくらない

2019年6月20日
短歌 ミルク
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プロフィール

HN:
ミルク
性別:
非公開
趣味:
頭の体操
自己紹介:
気づく人だけが手に入れられる
輝きを求めて、日々の宝探しを
楽しむように短歌のリズムで進む
足あとのようなものです。

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