心が渇けば、砂浜にいた。風はそれを知って先に鳴き始めた。
青いのは若かった自分だけではなかった。
1・君だけの夏舞台だね夕映えに蜜柑花咲くまだ染まらずに
2・日に焼けた濃さと引き替え色あせた青いジャージと最後の夏へ
3・手に残る二葉のかおり濃いままにかすり目映い茶畑に夏
4・斜め前ぽつんと開いた転校の君は夏風 まぼろしになる
5・土砂降りではじまる夏の狂騒は強起弱起と織り交ぜながら
6・あの夏に遊び損ねた花火だね湿る青さが沁むサマーヌード
7・対岸に滲んでのびた蜃気楼追いかけられない夏の錯覚
8・潮騒を編み込んだのさ麦わらが風に答えるやさしくしなる
9・しばらくは落ち込んでいたいあの夜の風が私を甘やかしても
10・哀しさは風になるのかやるせない胸の隙間を音もなく吹く
11・一日を終えてホームに吹く風よ家はあるのか誰か待つのか
12・子供らはうまく切るんだこの風も押し戻されておぼつかぬ膝
13・隠そうと努める季節追いやって風はすべてを広げてみせる
14・強風が叩いてあおるYシャツが袖をぶつける手を繋いでる
15・夏休みラジオをばらすときめきに勝てずにいるよ未来の僕は
短歌 ミルク