えもいわれぬ力に、浅瀬で引っ張られたことがあります。そうでなくても海に入ってはいけない時期に、ふざけて遊んでいた十代の夏でした。自分の周りのプール一杯分くらいの水と一緒に、ごっそり持って行かれる感覚だけを覚えています。下っ端でぱっとしない仕事や日々のイライラが、まるでやり残した宿題のように頭上を覆い、海へ走らずにはいられませんでした。もがくことを諦めて体を預けたら、あっという間に現実からもさらわれてしまうことを知り、砂にまみれた靴を払いながら、一粒でもしがみつくことの意味を覚えた気がします。
夏の空は、その時の気分の色で映るようです。
やり残すものだけ見えて空しさが空を青から灰色にする
一粒も留まる場所によっては致命傷となる。小さくても硬い石なのだから。
2019年8月21日
短歌 ミルク