久しぶりに短歌ドリルで少し臨場感を感じながらお読みいただければと思います。
現在うたよみんにてお題として上がっております、デニム、藍についての作歌です。
デニムで意味を引けば、serge de Nîmes(ニーム産のサージ生地)とまさかのフランス語であると知って、英語圏の影響力は凄いとあらためて感じています。最近は様々なデザインの洋服にも用いられるようになりましたが、私の年代ではどうしても作業着とか、遊び着のイメージが強くあり、なかなかそのイメージから抜けられないのも事実です。
ストレートに頭に浮かんでくるのは、
「色褪せた生地」、「折り上げたジーンズの裾」「力持ちなイメージ」「濃い藍色」「ダメージジーンズ」「西部劇」「大草原の小さな家」「石ちゃんと鶴瓶さんとチャッキー」「ごわごわ」
と、こんなところでしょうか。
ごわごわというオノマトペも気になりますが、とりあえず即興で3つくらい作ってみます。
A・ 匂いまで絡め取りたいジーンズはきっとみどりに憧れている
B・ 擦り切れたことも燻せば味になる時の深さはデニム地のなか
C・ 愛用と書けるデニムはやわらかく薄くいびつな膝吊されて
いつものことですが、一発目のAはそこそこの出来映えになりました。草の匂いが漂ってくる感じ、決して他の色に混ざらない藍色の頑なさも少し垣間見える歌になりました。
少しこのまま寝かせてみたいと思います。
Bでは(擦り切れ)に心と時を掛けて、デニムの味わいをある程度の時間の経過と共に詠おうとしました。燻せば(いぶせば)はとても魅力的な言葉なのですが、少し違うような気もしています。
Cもある程度の時間経過と自分にしっとりと添い合うアイテムとしてのジーンズを詠ったものです。長い間履いていて、自分の体の形に沿ってきたいびつな様子ですが、今は元からやわらかいジーンズもあることですし、やわらかい、薄いは少し合わないかもしれません。
少し詠いたいことを整理してみます。
「色褪せたこと」
「濃い色が薄くなること」
「膝の部分が伸びていびつになっている」
「時間経過によって起こること」
「愛用しているが故に劣化してゆく」
これらを考慮して作り直してみます。
D・ 色褪せて海の色から空の色デニムに宿る私のかたち
うーん、「海の色から空の色」って聞いたときにはイイ言葉みたいに聞こえるのですが、やはりありきたりというか既視感もたっぷりで少し気に入りません。
E・ 青春に濯がれた藍薄まってデニムに宿る私のかたち
これはこれでちょっと解り辛いですね。青春、私、で少し自分側に寄りすぎてしまっています。
と、ここで少し気付きがありました。「膝小僧」という言葉がありました。それから「デニムに宿る」という所は使えそうです。
ある程度の時間経過によってもたらされる劣化のイメージ、それが産み出されるまでの表現として、「膝に小僧を宿す」はどうかと思いました。これで10音なので、「デニムは」を足して下句とします。
問題の上句ですが、私のクセでどうしても悟りめいたものを入れたいので、褪せるの対になるようなものや、薄くなるものと濃くなるものを含められないかを考えてみます。先に「藍薄まって」と書いたのですが、藍は愛とも掛けられますので、薄れる藍(愛)なんてどうでしょうか。
「色褪せて薄れる藍」を始めに持ってきて、下句と繋ぎたいと思います。
問題は薄くなるの対比です。濃くなることを残り6文字で言わなければなりません。「薄くなる」を更に追求してゆくと「消える」所に限りなく近付いてゆきます。「消える」ならば対として「現れる」が使えます。下地も含めて色褪せて擦り切れれば、現れるのは膝小僧です。使えそうです。
語順や韻を整えて、「色褪せて薄れる藍に現れる」を上句とし、現れるが下句の膝小僧に影響するようにしたいと思います。
完成・ 色褪せて薄れる藍に現れるデニムは膝に小僧を宿す
結果オーライですが、デニムも藍も含めることができました。
韻を踏むことについては、上句の2回くらいが適当だと思います。
更に「デニムの膝に小僧が宿る」と3つめもできるのですが、デニムが時間をかけて宿すことの意味の方が大切なので、宿すとしています。
おまけのように、読みの掛かる「愛」についても深い意味をもたらす歌となりました。
色褪せたり、薄れたり、膝を抱えたり、結晶を宿したり、そんな思考に誘えたならよいのですが、どのように感じていただけるでしょうか。
褪せることと薄れることは同じだろうという方もいらっしゃるかもしれません。
褪せて薄れることをなぜ重ねて言うのかということですが、それは掛かる先が「藍」と「愛」の二つに掛かっているからに他なりません。藍が褪せて薄くなってしまったのに、愛着は増したとか、鮮やかなものが失われることで見いだせるものへと向けて考えてみて欲しいからです。
いつもながら説明チックな歌ですが、噛んで味わって欲しいと思っています。
2020年9月11日
短歌 ミルク