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短歌のリズムで

言の葉が群れをなすかな鰯雲 暮れゆく空で歌になるらむ

よそ見の意識

ガラケーを機種変更しろと、ひっきりなしに電話やメールがやってきます。もうすぐ使えなくなりますからと必死に訴えられているのですが、使えなくなるのは私で、あなたは大丈夫なんじゃないですか?と聞き返したいくらいに相手は必死です。(笑)

スマホも持っていますがもっぱら雨雲レーダーを見ることと、思いついたフレーズをメモすることくらいにしか使っていません。ほとんど使わなくてもいい生活で、パソコンが別にあるということもあって何の問題もありません。

スマホの普及で危険なよそ見は増えましたが、大切なよそ見は失われてしまいました。

よく解らないことを調べるとき、以前はもっと多元的に調べていたのに、今はすべてがスマホの中で完結してしまう調べ方をすることが殆どなのではないでしょうか。
心のよそ見、意識のよそ見というものが圧倒的に少なくなったと感じています。
百科事典や国語辞書が当たり前に使われていた理由は、それしか無かったということだけではありません。目的の項目の近くには必ず別の情報や知識があり、それらにより道をすることで多元的な視点を誘発できたからだと思っています。目的がなくパラパラとめくっても、いつも自分には知らない事の方が圧倒的に多いという事実を突きつけてくれます。
それは不思議なことですが、百科事典と詠いながら答えは一つだけだとは限らないと問いかけているようにも感じます。よそ見の思考はとても大切で、そのために百科事典が存在している、知識の量ではなく、考えるという探険のための地図だったのでは無いかと思うのです。

昨今は特に物書きをする人々のよそ見が無くなり、極端な合理性のみを追求して機械的な報告調のものになってしまっているのではないでしょうか。新聞や雑誌の記事、エッセーや短歌についても、自分に興味のあるものに自分なりの勝手な解釈をして物語性を盛ってしまう傾向が顕著に現れています。ことさらに結果の因果関係を求めるでもなく、確固とした自らの意見を話すでもなく、大勢を占めるであろう雰囲気に迎合して効率的に「いいね」を集めることの何と多いことか。このようなことでは人間の本質に迫るような意味のある文章を書けるはずもありません。

実際に起こっていることに対して、なぜ簡単に自分以外の視点を持つことができないのでしょうか。それは思想や教育や社会生活がそうさせているのでしょうか。私は決してそうだとは思いません。自らの掲げる「正義」なり「正しさ」なりがブヨブヨで揺らぎまくっているからに違いありません。人の問いかけに対して、自然は極めてソリッドでシャープな抗力を見せてくれます。時には答えなど決まっていると言わんばかりに人を翻弄し、情け容赦ありません。人だけが過剰な曖昧さを許されていると勘違いしているのです。

自分が大好きなあまり自分中心の視点で考えてしまうと、大いに解釈や本質を見失うことになりかねません。特に人間は自分勝手に自己都合で創造してしまう癖がありますから、何にでも善悪や損得を結びつけて安易に結論のように語ってしまう生き物であることを忘れてはなりません。

塔和子さんの詩を読んでよくよく感じたことは、ここまで同胞を差別し苦しめる人間という生き物を「言葉」すらその世界から排除したがっているのではないかという危惧にも似た感情でした。
「醜い人間よ、もう言葉を使って語るな」とでもいうかのように、塔和子さんの詩は圧倒的に美しい言葉で占められています。心が言葉に訴えかけて、心が言葉に追いついて、言葉が心を認めたのでしょう。自らの苦しみや憎しみの心を昇華し、浄土のような言葉の園を手繰り寄せることが如何に素晴らしいことなのかを、一体どれほどの歌人は知っているのでしょうか。

何れにしても自己愛を捨て去らなければ、よそ見の出来る心眼は手に入りません。
漫然と自己愛を放置してきた数々の古典、紀貫之や与謝野晶子を筆頭に現代に広く蔓延る「私の普通の生活(人生)物語化計画」を、今こそ糾弾しなければなりません。
言葉を蔑ろにし、ただ落差や物珍しさで気を引くためだけに使い続けるのなら、必ず手痛いしっぺ返しを喰らうことになるでしょう。

・ 斑(ふ)に落ちた雨疑えば陽だという娑婆(しゃば)は正しさばかりではない

葉っぱの斑の原因を長らく雨のせいだと思っていた。本当は強い紫外線のせいで、光だけが正しいものだという見方に雨は静かに問いを投げかけていた。観察すればよいのではない。観察の先に何を見つけられるのかに行き着くために。


2021年7月12日
短歌 ミルク
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プロフィール

HN:
ミルク
性別:
非公開
趣味:
頭の体操
自己紹介:
気づく人だけが手に入れられる
輝きを求めて、日々の宝探しを
楽しむように短歌のリズムで進む
足あとのようなものです。

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