自分が１４、５歳から聞いている音楽がほとんど変わっていないことが、本当は驚くべきことだと気付いたのは平成や令和になってからだと思います。それは単にノスタルジーという言葉では片づけられない、音楽や言葉に対しての当時のアーティストの熱量が凄まじいことの証明でもあると感じています。
なぜ、今流れている音楽が全く響いてこないのか、それは私が歳をとったからではありません。今の楽曲を遙かに凌ぐ良質で高純度な歌を先に聞いてしまったからに他なりません。
少しくらい安くてもマズイお米やお酒を買わないように、圧倒的に聞く値打ちがないと判断してしまっているからなのでしょう。とても贅沢な時代に生まれたことを有り難く感じなければなりません。
単に若者文化だと諦めて受け流すことが年長者の務めなのかもしれませんが、テレビから流れてくるものにさえある種の嫌悪感を抱いてしまう原因は何なのかを考えてみることにしました。
全般に感じられることは、とにかく歌詞が多くて長いことです。
試しに文字数を数えてみると、若者を中心に一昨年から大ヒットしているYというアーティストの代表曲では、全部で７１２文字ありました。（曲全体で４分３５秒）
対して、私が一番好きな吉田美奈子さんの歌では、僅か１２３文字（曲全体で４分４８秒）しかありませんでした。楽曲の構成の違いなどもあるのは十分承知しておりますが、字数に約６倍の差があることに驚きました。しかも制作当時の美奈子さんも２６～２７歳であったことを考えると、比べた歌が凄すぎたのかもしれませんが、まるで俳句と短編小説くらいに違います。
これはもう完全に「自分語りの病」の仕業だと納得しました。
短歌を詠む若者と抱えている問題が全く同じです。
美奈子さんの歌はもう４０年近く、何百回も聞いているのに飽きるなどということはありませんが、
昨今の歌は１回目でも途中で聞くことを止めたくなるのです。
行き過ぎた自分語りが一体何をもたらすのか、当時から偉大なアーティスト達は無意識のうちに皆わかっていたのだと思います。本当に凄いことです。４０年経とうが５０年経とうが記憶から消えないはずです。簡単で短い言葉、素直で美しい表現、研ぎ澄まされた感性が紡いだ歌詞は驚くほど短く、突き詰めた最小限なのだと思います。
若者は１ページに詰め込めるだけ言い訳を書き連ねなければ死んでしまうとでも言うように、隙間無く言葉を吐き出していきます。年長者よりも遙かに長い時間が人生に残されているというのに、まるで何かに追い立てられているように感じられます。
どれだけ多くの言葉を並べたとしても、伝えられない、伝わらないことは沢山あります。
そのために考える余白や余裕はあるのだと思いますが、それを排して躍起になって言葉を吐き出しているようにしか聞こえないのです。
創作には作者自身が否応なしに滲み出してきてしまいます。
それが本当に薄っぺらいとガッカリします。
若いから薄っぺらいのではありません。生き方や考え方そのものが薄っぺらいとわかった時、
膝から崩れるようなガッカリを味わうことになるのです。
「時間が雑味を洗い流していく」と、このブログでは何度も話しておりますが、まさに今新しいウィルスが「余分だったもの」「過剰だったこと」を新しい価値観でふるいに掛けています。自分が創作したものがふるいの中に残るのか、振り落とされるのか、その道のプロはそのことを踏まえて生きて行かねばならないと思います。
本当に価値のあるものは時間と共に輝きを増しながら、心の中の居場所を大きくしてゆくのです。
だから流行廃りなどとは対極の位置にありますし、決して置き換えることができない唯一の宝物として共に時間を流れていくものだと信じています。
言葉を並べて並べて話しまくって、それでも何も残らないなんて痛々しい限りです。
マニュアル世代、デジタル世代が掬い洩らしたものの中にだけ、エバーグリーンが眠っているなんて、なんとも皮肉な世の中になったものです。
2021年3月17日
短歌 ミルク
