・ 推測や想像、創造にも根拠が必要、いい加減な表現で読者に判断を委ねない
とかく現代人はファンタジーが大好きです。事実や事実に隠された深い奥行きを知りもしないで、空想や想像で自分の都合のよい世界を描き、薄っぺらな上澄みだけの体裁を繕う歌ばかりです。「僕や私のポップな脳内を見てよ」と言わんばかりの押しつけは、それが張りぼてだと解ってそうしているのでしょうか、それとも張りぼてを本物だと信じている相当におめでたい考えの持ち主なのでしょうか。
子供が純粋に覗いて「ビー玉の中は宇宙みたいだね」と言うことと、
大人が覗きもせずに「ビー玉はまるで僕の宇宙みたいだ」と言うことには、大きな違いがあります。
子供の時の経験や知識、そして純粋なものへの同調反応は大人になってからは見事に失われてしまうものです。失われて見える物もあれば、失われて見えなくなってしまうものもあります。ビー玉の宇宙とは子供の目だからこそ見えた世界であって、大人がそれを宇宙と言ってしまうと明らかに頭で計算されたことが見え隠れしてしまいます。
このような見え透いた創作で作られた歌には、はっきりと説明できるような歌のバックボーンはありません。ただ落差があるとか、インパクトがあるとかいう理由だけで、そもそも関係の無いもの同士が詠われていたりしますので、本人も作った後は放ったらかしの状態です。あとは読者に丸投げして勝手に解釈して下さいなという、無責任極まりない作り方だと思います。
歌により、対象や対比を詠うものであれば落差や色づけの異なる要素を引っ張ってくることはあるでしょう。少しの想像や創造で脚色することもあるかもしれません。しかし大人が作る短歌となれば、ある程度の根拠は必要だと思います。全ての法則を無視してファンタジーの世界を描いても、極端なおとぎ話になってしまえばそれは自分だけにしか解らない「自分ごと」に限りなく近づきます。全てを写実で作る必要はないと思いますが、地に足のついた舞台で描かれるファンタジーでなければ、読者はついてゆくことが出来ません。
経験値や年代の格差があったとしても、読者がある程度後追いのできる世界であることが求められます。初めて触れた歌の世界でも、きちんと読者がなぞってゆけるような歌の構成でなければ、そのほとんどを理解されずにスルーされてしまう歌になってしまうでしょう。
・「自分だけが自分の歌にマイナスを付けることができる」ことを忘れない
ここまで、いくつかの大切なことをお話させていただきました。
ど素人が何を偉そうに語っているのかと、そう思われる方はそれで結構です。
短歌に触れて短歌の世界を覗いてみて、いつまで経っても、身内びいきの褒め殺し合いしか頭の中にない現在の短歌界に、私は絶望にも近い感情しか湧いて来ませんでした。
こんなにもルールやポリシーやスピリットが曖昧な人達ばかりの中で、本当に短歌は成熟し、研ぎ澄まされてゆくのだろうかと疑問ばかりが湧いてきました。もっともっと、個性や主張を前面に出して、歌人同士、歌同士がぶつかり合うような研鑽が成されなければ、成長どころか堕落しか起きない予感すらしています。
先人もプロの歌人も頼りにならないのならば、もはや自分自身が自分にむち打つしか方法がありません。本当の意味でフラットに忖度なしに歌を評価できるのは、自分自身だけなのかもしれません。誰もマイナスを付けないのならば自分が率先して付ける。そういった心構えが無ければ歌も自分も成長はできないでしょう。
短歌を愛する人の中で、選歌や選評のプロセスや内容に納得がいかないと思われている人は相当数いるのではないかと思います。
それは「なぜ選ばれなかったのか」「どこが悪かったのか」ということが全く明らかにされないまま、歌が葬り去られてしまっているからなのです。
自分達の物差しが合っているのか間違っているのかも定かではない選者が、いったい他人の歌の何が解るというのでしょうか。誰かの何かを評価する際には、少なくとも選択する根拠となるポリシーを明確にして欲しいものです。そしてその上で、時間を掛けても構わないので、マイナス面をしっかりとフォローできる評をするべきだと思います。
種明かしを渋る三流マジシャンのように、いつまで経っても褒め言葉しか発せず、タネ(キモ)は自分でお探しなさいという姿勢では、永遠にマイナーなポジションから抜け出せないでしょう。短歌もろとも埋没してしまうのは時間の問題だと思います。
一人でも、一つでも多く、きちんとした選歌ポリシーを携えた歌人や結社が増えることを願って止みませんが、現在見回している限りでは難しいかもしれません。
それでも自分で言葉や歌を研ぐことを諦めてはいけません。
まだまだ先が、その上があるのです。
自分に寄り添い、自分と共に生きてゆく短歌を、一つでも多く持ちたいという気持ちを決して忘れてはならないと思っています。
2020年5月21日
短歌 ミルク