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短歌のリズムで

言の葉が群れをなすかな鰯雲 暮れゆく空で歌になるらむ

耳障りな風の音もある (笹井宏之 ひとさらい 書肆侃侃房)

プロの歌人の歌集レビューなどでも高評価されている、笹井宏之さんの「ひとさらい」を読んでみることにいたします。これまでは、えーえんと・・・の歌で有名な方としか認識していませんでした。穂村さんや中澤さんのテイストでしょうか、また辛い一冊が始まります。

馬場あき子さんや岡井隆さんも絶賛された稀代の天才として多くのファンを持つ歌人だそうです。若くして難病でお亡くなりになった方ですが、だからなのか滅多なことではネガティブな評を目にすることはありません。
残念ながら私はそういうバイアス効果が大嫌いな人間ですので、病気とか不幸とか、死んだとか生きているとか、そんなことは一旦横に置いておいて純粋に歌の評価に徹したいと思います。

ちなみに帯に載っていた小さな写真を見る限り、良いところのお坊ちゃまのように感じます。

歌の大半はやはり穂村・中澤型の意味不明なデストロン合成怪人の名前のような歌が殆どです。

出だしの数首で思考は停止に近い状態になりました。歌の真意を考察しようとすると頭が痛くなります。これは考えるだけ無駄です。ここでいろいろと考えてしまうから、多くの歌人は「深い意味のある優れた歌」などと誤った評をしてしまうのでしょう。
たまたま緑色で太陽を描いた幼女に「何でお日さまは緑なの?」と尋ねるようなものです。愚問です。ひらめきかも、たまたま手に取ったのかも、色覚に障がいがあったのかも、外側からそれを判断することはできません。読み取るための最低限の情報が与えられていなければ出来ないことを、無理やりに読者がする必要はありません。

歌の大部分が「自分ごと」に関することなので、その詳細を知る由もありません。
「あーそうですかー」「そう思ったのですねー」「ふうーん」の連続。一つの出来事や対称が「○○に見えた」とか「○○と思った」ということは勝手ですが、比喩も暗喩も飛躍し過ぎると必ずついて行けなくなります。落差を装おうとすれば尚更で、作者が心地よい、珍しいと感じた風の音も、読者にとっては居心地の悪い、タチの悪い風の音になってしまうことが多いのです。

体が動かせなくても思考だけは自由なはずなのに、これでは自由な思考を自分から投げ出してただポンポンと浮かんで来たものに当てはめたという歌に過ぎないものが多すぎます。思考が世界を旅するとか、あらゆる事象が言葉を運んでくるとか、そう言えば良く聞こえますが、あまりにも偏っていて逆に自虐的とか閉塞的だと感じてしまいます。
本当はハンディキャップがあるが故に更に高い壁を越えていける可能性があるにも関わらず、結果として穂村さん、中澤さんのあたりをうろついているに過ぎません。大家の絶賛の真意も測りかねますが、私は1mmも未来への可能性を感じませんでした。

素養は十分過ぎるほどおありになったのでしょう。
正確で素直な観察が光る歌も幾つかありますし、短編詩のように美しい歌もあります。
しかしトンネルの向こうに光が見えないのです。
それは可能性という光なのか、気付きという光なのか、悟りという光なのか、はたまた愛という光なのか、それを感じる事ができずに読み終えました。
結果この作者の中では最後まで言葉は「ただの道具」にしか過ぎないことがはっきりしました。だから言葉遊びをしてしまう、言葉の上辺だけのおかしさを追いかけてしまうのでしょう。

言葉に愛されなければ、言葉に選ばれなければ、天才でも何でもありません。
普通の歌人です。

■素晴らしいとされているこれらの歌は私の中では全く評価に値しません。

・えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力を下さい
・水田を歩む クリアファイルから散った真冬の譜面を追って
・風という名前をつけてあげました それから彼を見ないのですが
・クレーンの操縦席でいっせいに息を引き取る線香花火


良い歌もあります。少しだけ。

■詩的なセンスが光る歌

・影だって踏まれたからには痛かろう しかし黙っている影として
・眠らないただ一本の樹となってあなたのワンピースに実を落とす
・果樹園に風をむすんでいるひとと風をほどいているひとの声
・拾ったら手紙のようで開いたらあなたのようでもう見れません

■素直で正確な描写が光る歌

・初めての草むらで目を丸くして何かを思い出している猫
・真水から引き上げる手がしっかりと私を掴みまた離すのだ
・千万のハートマークに負けまいと鐘を鳴らしているベルマーク
・無菌室できみのいのちは明瞭な山脈であり海溝である


余談になりますが、私の中で今年(まだ終わっていませんが)一番の素晴らしい言葉は、パラリンピックの競泳男子100mバタフライ(視覚障害S11)で金メダルを獲得した木村敬一選手の言葉です。

「全盲の僕にはメダルの色が何色なのかわかりません。国歌が流れたときが、僕が唯一金メダルを取ったんだと認識できる時間なのです。」

多くの方の涙腺が崩壊した、感動の一言でした。全力を出し切ったあの瞬間、心を素直に放り出せた木村選手だったからこそ、素晴らしい言葉が紡がれたのだと思います。

まぁ、その直後だったんですよね、笹井さんを詠み始めたのは。
運が悪いとでも言いましょうか・・・。

2021年9月11日
短歌 ミルク
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コメント

プロフィール

HN:
ミルク
性別:
非公開
趣味:
頭の体操
自己紹介:
気づく人だけが手に入れられる
輝きを求めて、日々の宝探しを
楽しむように短歌のリズムで進む
足あとのようなものです。

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