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短歌のリズムで

言の葉が群れをなすかな鰯雲 暮れゆく空で歌になるらむ

沈黙を許容しない社会

最近やたらと使われていて気になっている言葉があります。
もう気になり始めたら、次から次へと耳にするようになって、まるで流行病のように使われているその言葉を嫌いになってしまいました。

「あのーなんていうか・・・」

話しかけられた時にほんの少し時間を稼ぐためでしょうか、会話が途切れないようにという事への条件反射として頻繁に使われています。

テレビ番組などで少し沈黙する場面が現れた時に、その事をおもしろおかしく揶揄する意味で「放送事故」などと呼んでしまう人もいるようですが、いくら時間を単価で買っているとはいえ、ほんの少しの沈黙も埋めようとしてしまう圧力があることは異常という他はありません。

SNSのメッセージアプリでの「既読」を巡るモヤモヤにも言えることですが、人間は同一ロットの工業製品ではないのですから心が何かを感じて反応するまでの時間など、それぞれが違っていて当たりまえだと思います。にも関わらずシステムや社会がその時間を「無駄」と判断し圧縮しようとする傾向は様々な場面で強くなっているように感じます。

本心では異なる意見を持っていても、簡単に同調圧力に負けて迎合してしまう。
そのような人が増えてくると、自立して異なる意思表示をしようとする人を排斥しようとしたり、地域や立場や職業でカーストを作って差別することが始まるという歴史を、一体何度繰り返せば理解できるのでしょうか。

アンガーマネージメントでは6秒待てば多くの怒りがコントロール出来るとあります。

それはとても大切な時間(空白)です。
怒りにまかせてすぐに手を出してしまったり、相手を罵ってしまうとすぐに憎しみが両者を取り囲んで平穏だった長い時間を押しつぶしてしまうのです。

無言や無音や沈黙に大切な意味が宿っているという認識を、現代社会は忘れようとしているのかもしれません。
とにかく急かされていて、立ち止まって思考するという猶予を与えません。
そしてそれはまるで自分勝手な立場や権利の主張がそうさせているかのように、ルールだと言わんばかりの圧力となって押し寄せています。

腕の立つ職人と言われる人の殆どは、あまり喋りながら作業をしないものです。
言葉を持たないものと会話しているからだと思います。
だから親方を見て「盗め」とおっしゃるのでしょう。
言葉を持たず、会話ではない対象との「拍」という特別な時間の長さやタイミングや押し引きを極めて、技を磨けということなのでしょう。

音楽では調子を合わせるために便宜上「拍」を区切って表していますが、本来「拍」の長さは一様ではない、曖昧なものだと思います。

人それぞれが感じる「拍」の長さやタイミングや強弱こそが、心に振り幅を与えて豊かな表現を産み出すのだと思います。

もしも「拍」が一つもない歌や演奏があったなら、それらはただの騒音になるでしょう。

「拍」を用いて考える、だから人は「考える葦」になり得るのです。
要領よく無音や空白を埋めることが仕事が出来るとか効率が良いのではなくて、急いでいても立ち止まって思考ができる姿勢を取り直すことが求められているのです。

オブラートのように薄っぺらい歌がネットや雑誌を席巻していますが、それは裏を返せば受け止める側の心に「薄っぺらな隙間」しか空いていないことの表れでしょう。

芸術や文化や伝統が生き残るためには、万力のような「時の悪魔」の圧力に耐えて耐えて耐えて、そして勝たねばなりません。

本物は心の隙間をこじ開けて染み入ろうとするはずです。
だから焦ってはいけません。無言で言葉を磨き、心を鎮め、拍と向き合う。沈黙の中から湧き上がるものを捉えてこその歌人なのでしょう。

まだまだ多くの言葉の受容体は眠っているままだと思います。様々な「拍」を手懐けることが出来てこそ、言葉に愛された歌ができるのだと思います。


職人は手触りを愛で音を聞く見えない拍を手懐けるため


「おしゃべりな職人は仕事が出来ない」とはよく言ったものだが、現代は口頭がメッセージに変化しただけで、おしゃべりは相変わらずだ。
四六時中イヤホンを挿したままで一体何の「拍」が感じられるというのだろうか。
せいぜい「時の悪魔」の脅迫のリズムに踊らされているがいい。

2022年5月17日
短歌 ミルク
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プロフィール

HN:
ミルク
性別:
非公開
趣味:
頭の体操
自己紹介:
気づく人だけが手に入れられる
輝きを求めて、日々の宝探しを
楽しむように短歌のリズムで進む
足あとのようなものです。

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