ドップラー効果で済ませてしまうのは淡泊すぎるだろう。消えかかる炎が最後に勢いを増すように、夕陽は視覚の外から何かを訴えかけている。心に蔓延る雑念を焼き尽くし夜をもたらす黒い帳が下りるとき、今日一日と自分自身に向き合う時間が訪れる。集いは解かれ、合図の音はどれも長く響いて、空に向けて大きく広げられた風呂敷は、静かに丁寧に畳まれてゆく。
・乾きたる土振り払う長靴に響くチャイムの夕焼け小焼け
・終業にシビアなカラスの号令で森の帳は静かに降りる
・追いかける色定まらぬ夕暮れにはぐらかされて溶けたさよなら
・なぜだろう日暮れは昼を曖昧に日の出は夜を鮮明にする
・歩をあわせ何も話さず別れたね夕日はとても早く沈んで
・夕焼けに伸びるしもべの背を競い走れ道化の挿絵のように
・朱墨落ち薄まり混ざりなだらかに解かれゆく空地平に消ゆる
・重力も無きものとしてゆるゆると鷺が置き去る朱き夕暮れ
・人知れず恋を燃やしたアキアカネその身を溶かす夕焼けの空
・納経の札裏返り柿の実も夕陽に溶けてカラスは帰る
2019年10月12日
短歌 ミルク