一人が好きだ。一人の空間も、一つの灯りも、独り占めしていることも許されている夜が好きだ。月もきっと同じ事を考えているに違いない。
1・どうしても君を見たくてこじ開けた夢が零れる三日月の夜
2・しばらくは追いかけてくれ一人では明けそうにない赤い月の夜
3・誰の目も証も嘘も打ち消して夜は孤独に覆い被さる
4・ほんとうに静かな夜はどこにある さまよう我を月よ誘え
5・電車にもプレッシャーにも潰されて今日も平たい月を見ている
6・自堕落と夢あきらめてうつむいた強引な月やけに明るい
7・踏み込めばまだつかめそうな濃淡の夜は視界をすぼめ遠のく
8・東京へ行けば見えなくなるという君の星座を今 目に焼き付けて
9・星粒の描く紋様ひといきに亡者となってかき集めたい
10・寝静まる紺の夜空をひとしきり絞れば叶う結晶となり
11・澄みきって二人はどこへも行けそうで星は一つも流れなかった
12・先回りしたのは気持ち逢えずとも傾ぐ心に月は寄り添う
13・負荷を掛け産まれる灯り明暗も漕ぎかた次第 月はまだ無い
14・秋侘し真夜中に吹く口笛を咎める風は誰の代わりか
15・枯らさずに消さずにそっと抱く夜に吹かれ息づく心の火種
2019年5月24日
短歌 ミルク