ニューウェーブ短歌の旗手であり現代短歌を代表するカリスマのように捉えられている穂村弘さんのベスト短歌集らしいのですが、以前に短歌を勉強していると話した知人から「この人凄いよ!」と言って渡されたのがラインマーカーズという本でした。
パラパラッとめくって、すぐに読むのを止めました。面白くなかった。それが第一印象でした。しかし、感想をたずねられたら少しは読んだことを話さなければならないだろうと、辛抱して最後まで読むことにいたしました。
帯には、甘くて、痛い。優しくて、こわい。心臓を直撃する愛のうた。と、刺激的なスローガンが掲げられています。帯の背面には代表作と思われる歌が何首か書かれています。
全部で400首の歌が掲載されているようです。
うーむ苦痛、でも何とか読まねばなりませんね。
第一印象のとおり、やっぱり面白くない歌が続きます。とてもとても狭い世界、蟻のモチーフが何度も出てきますが、地面に落とした飴玉の周りをオスの蟻とメスの蟻がぐるぐる周りながら「こうだよねー」「そうだねー」と話をしている感じです。それはファンタジーと言えばファンタジーなのでしょう。蛍光色のサングラスをかけて世の中を見渡せば、それはそれは刺激的に見えるでしょう。僕がサングラスをかけて、僕にはそう見えたのだから、それはそれでいいでしょう?という声が聞こえてきそうなくらい自分の世界に埋没してしまって、まるで出来損ないのスノードームのように滑稽に見えてきます。
短歌に限らず表現者には、そう見えたとしても使ってはならない表現や言葉があると思います。最低限度のデリカシーやモラルで考えれば誰だって解ると思いますが、それを疑いたくなるような歌もちらほらあり、人によっては評価が大きく分かれることがあるでしょう。プロというものは誰かに制せられる前に自身で制することができてはじめて、言葉を生業にできるのだと思いますが、若気の至りで済ませるには少々酷い歌もあるようです。
いくつか引いてみましょう。
(ラインマーカーズ 穂村弘 小学館 より)
・セロテープで直した眼鏡を掛け続けクラスメートを愛するタイプ
・ウエディングドレス屋のショーウインドウにヘレン・ケラーの無数の指紋
・(このジャムは大統領のお気に入り)みずのきらめき(撃たれて死んだ)
・バットマン交通事故死同乗者ロビン永久記憶喪失
・これ以上何かになること禁じられてる、縫いぐるみショーとは違う
・小父さんが鞄抱えて飛び込めばダイヤ乱れて煌めく朝
私はどのような言い訳があったとしても、このような歌は許容できません。
表現の自由を逆手に取ったただの悪趣味な散文にしか見えません。
蛍光イエローや蛍光オレンジの眼鏡を掛けて光って見えたと浮かれてしまっている本人達に、何をもって蛍光が光るのか、その根源を見定めることなどできないのでしょう。
どうしようもない暗さや闇があるから蛍光が見えていることを、果たして表現できているのでしょうか、出来ているはずもありません。
気取るのは結構です。メルヘンを想い描くこともいいでしょう。けれど人々の痛みや苦しみは現実に進行形としてあるのです。自分と同じように蛍光色のサングラスを掛けている弱者を代弁したつもりなのかもしれませんが、同じ色の中に紛れて眼鏡の奥の目の哀しみにまで辿り付けてはいないと感じました。それだけ薄っぺらい上澄みの現実しか詠えていない歌ばかりなのです。
言語感覚に優れたとか、硬軟自由自在とか、どなたもどなたも褒めまくっていますが、可笑しくて可笑しくて、頭を抱えてしまいます。読後感が絶望に最も近い本かもしれません。
これだけテイストが異なると薄ら笑いさえ出てきてしまいますが、これが腐った歌壇や短歌界の病巣だと思えば、大いに納得できるものです。
選者や執筆を依頼している出版社、雑誌社、新聞社や結社、それぞれの短歌賞の主催者の人達は、皆この本を読んでいるのでしょうから、同じ穴の狢という訳ですね。
そういった方々に今一度、先に挙げたような歌を声に出して読んでみてほしいものです。
本当の事、本物の重さ、現実の残酷さ、表に決して出ることのない弱者の悲哀を何一つ解ってはいないのでしょう。こんなもの(サブ)を付けてもカルチャーなんて呼びたくはないものです。
※どおりで本はとても綺麗で手垢どころか、装丁の蛍光色もキラッキラの状態な訳です。
2021年6月28日
短歌 ミルク